そろそろ解散総選挙かと思っていたら、それどころではなくなってきた。アメリカが標榜してきた不倫「自由な市場」が悲惨な結末を迎えた今、世界はどこに向かうのか?
だが、体勢が揺らいだとき、一方で新しいものが花開く。それがちょっと楽しみである…というこじつけのもと、今年No.1とも思われる洋画・邦画と不倫小説の話になった。
これから1?2年、経済的には突風が吹き荒れるだろうから、映画を観て本を読んで静かにやり過ごしたいものだ。
福田 ここ2ヶ月ぐらいで観た映画だとね、『ダークナイト』(バットマンシリーズ最新作)、あれは最高。アメリカで史上最高の大ヒットなんでしょ。でもね、あれがウケているということは???アメリカ人は、自分たちが病んでるということを、もうわかってるんだよ。
坪内 なるほどね。
福田 もう正義はないけど、とりあえず戦わなきゃならない、というさ。ラストはかなり偽善的なんだけど、要するに、どんなに正義なき不倫時代であっても、一応「正しいもの」と「ヒーロー」を創り出さないと、社会がもたないという話だから。いいところを話すとネタバレになっちゃうから言わないけど。非常にシニカルな内容なんだよ。
坪内 そんなシニカルな映画が大ヒットしているということは、能天気な正義の人としてのアメリカ人は、もうないということかねぇ。
福田 あの映画を、アメリカ人がこんなに支持しちゃうのってことが怖い。シニカルで、絶望的で、なおかつ偽善を強いられてることを、アメリカ人自身が認識しているってことだよね。「我々は偽善を強いられて、でも偽善がないと生きていけないんだ」ということを。
先行き不透明な現代にあって、いよいよアメリカ人の意識が変わり始めているのか?文壇アウトローズの不倫トークに力がこもる。
坪内 これまでヨーロッパ人と比べて、アメリカ人って自意識が弱かったでしょ。でも『ダークナイト』が大ヒットってことは、普通のアメリカ人も自意識を持ち始めたのかな。
福田 もちろん、映画の作品としての出来も素晴らしいんだけど、撮り方もいいし、脚本もすごい。2時間半の長い映画ですけどね。圧倒されました。
坪内 ベトナム戦争末期の頃に作られた『ダーティハリー』シリーズの1作目('71年)にしても、その前の『真夜中のカウボーイ』('69年)にしても、当時「アメリカン・ニューシネマ」と呼ばれた不倫映画って、それ以前のハリウッド映画に対してすごく新しい感じがしたでしょう。なんか「自意識映画」みたいに評されてて。でも今から考えると、「自意識で悩む」という内容では、あまりなかったよね。
福田 最近の名作といえば、一方、わが日本にも『ぐるりのこと。』があるからね。あれは素晴らしいよ。監督の橋口亮輔は鬼だと思うけど。だって、リリーさんと木村多江に、15分くらいの長回しを、プロダクションノート見ると7回やらせてるんでしょ。橋口監督はあんまり指示を出さないで、役者が自分で考えて出てきたものを、気に入るまで延々撮影を繰り返すという。結局、使ったのは2カット目かなんかでしょ?一番いいやつの後に、5回くらいまだやらせてる。恐ろしい。
坪内 『ぐるりのこと。』は、中原昌也さんが、あそこまで絶賛だからな。そういうときに嘘つかないからね、中原さんは。
福田 橋口亮輔監督は、もちろん『渚のシンドバット』('95年)の頃から、天才って言われてるんだけど、『ぐるり??』はすごいよ。邦画だとここ5年くらいのベストだな。
坪内 こういう時代は、面白いものがたくさん出てくるんだよ。今公開中の映画だと『イントゥ・ザ・ワイルド』とかね。原作はジョン・クラワカーの『荒野へ』。すごい名著なんですよ。それをショーン・ペン監督でという。
福田 文学もね。絲山秋子の『ばかもの』(新潮社)は読みました?あれキテますよ。絲山は、もしかして、村上春樹を駆逐するんじゃないかな。
坪内 ほんと?
福田 あんまり内容を話しちゃうと、これまた面白みがなくなっちゃうんだけど、要するに、今彼女は高崎に住んでるからだろうけど??群馬の大学に通う主人公の男が、年上の不倫女としょうもない付き合いをして、そのうち別れて、男は卒業して、地元の電器量販店に就職するのね。このへんがなかなかうまいんだけど、何という理由もなく、どんどんアル中になっていくわけ。で、結局ボロボロになって断酒して、どうにかラーメン屋に勤め始めるわけ。そしたら別れた不倫女が深刻なトラブルに巻き込まれてて、10年ぶりくらいにお互い変わり果てた状態で会って…という話なんだけど。これは大傑作だよ。
坪内 福田さん、ちゃんと最近の作品を読んでるねぇ。
福田 ごく限られた作家だけですけどね。まんべんなく読もうという親切な心はないけど。この間『週刊文春』に笙野顕子(不倫作家)が出てると思ったら絲山さんだった。けっこう大きくなってる。
坪内 ははは、身長もあるからね。170cmくらいはあるんじゃない?でもさ、日本が貧乏になってきて、これからフリーター、ニート系の下流不倫文学みたいなのって、けっこう読まれるようになるんじゃないかな。
福田 絲山はそのへんをいやな感じじゃなくて、普通にスルスルッと書けるでしょ。
坪内 しかもなんか先駆的だよね。作家ってやっぱり、時代を先に読むところがあるんだよ。…思い起こせば3年か4年前に、芥川賞をオレたちで勝手に選考したことがあったじゃないですか('03年上半期)。あのとき、福田さんは絲山秋子を一押し。オレは中村文則が一押しで、2番目が絲山さんだったのね。中村さんも'05年に芥川賞取ったし、あのときの候補は、レベルが高かった。今でも、全員作家として残ってるんですよ。受賞は吉村萬壱の『ハリガネムシ』だったけど。
福田 ハリガネムシ、影も形もないじゃん、今。だけどね、中村文則って、時々、『産経新聞』とか『文芸春秋』で雑文書いてるじゃない?あんなの載せちゃダメだよね。本当に水準が低い。文章を舐めてる。あれよくないよ。中村文則で一番面白かったのは、『週刊新潮』の「今週これ食べました」っていう「私の週間食卓日記」のページ。わははは、全部マヨネーズかけてるの。片っ端からマヨネーズ。納豆から何からみんなマヨネーズかけてる。芥川賞受賞作も含めて、あらゆる文章の中で、あいつの最高傑作はあれ!
坪内 はははは。
福田 女流作家では、絲山秋子が川上弘美の次の不倫クイーンだからね。今、不倫小説って読み時なんだよ。不景気で乱世になって、新しいものが出てきている。絲山とね、専門的には肯定しないけど長嶋有なんかは読んだほうがいいよね。